シリーズ「コンピュータの部品のしくみ」 第2回
回路が「押す」とは?
人の指の代わりに
前回は、机の上に押しボタンを 2 つと、LED を 1 つ置いた。
電池の+側につながった線を 1 の線、−側につながった線を 0 の線と呼んだ。 1 の線から 0 の線まで、道がひとつながりになると、LED が点く。
ボタンを一列に並べると、両方を押したときだけ点いた。「どちらも」、AND。
横に並べると、どちらか一方で点いた。「どちらか」、OR。
こういう決まりで 0 と 1 を返す部品を、ゲートと呼んだ。
そして、最後に 2 つの問いが残った。
1 つ目。押しボタンを 1 の線と 0 の線のあいだにどう並べても、「押したら、消える」は作れない。
2 つ目。押しているのは、いつも人の指だった。 ゲートの答えで、次のゲートのスイッチを押したい。 けれど、それを指でやるわけにはいかない。
スイッチを、電気で押すことはできないか。
電気で押すスイッチ
導線をぐるぐると巻いたものを、コイルという。 鉄の芯にコイルを巻いて電気を流すと、磁石になる。電磁石だ。 電気を止めると、ただの導線の巻きものに戻る。
このコイルの近くに、鉄の板を置いておく。 電気を流すと、板が引き寄せられる。 その板の動きで、スイッチの板を押すようにしておけばいい。
人の指の代わりに、電磁石が押すスイッチ。 これをリレーという。継電器ともいう。
机の上のリレーは、大人の親指の先くらいの、黒い箱だ。 コイルに電気を流すと、中で「カチッ」と小さな音がする。 スイッチの板が動いた音である。
このリレーは、9V の電池で動かす。 前回と同じく、家のコンセントの電気は使わない。
下の図は、押しボタン 1 つ、リレー 1 つ、LED 1 つの回路だ。 破線の枠で囲んだところが、リレーである。
1 の線から 0 の線への道が、2 本ある。
右の道は、1 の線 → ボタン → コイル → 0 の線。 左の道は、1 の線 → リレーのスイッチ → LED → 0 の線。 リレーの中の、コイルに押されるスイッチの部分を、接点と呼ぶことにしよう。
ボタンを押してみてほしい。
まず、右の道がひとつながりになって、コイルに電気が流れる。 コイルの箱が、水色になる。磁石になったしるしだ。
少しして、接点の板が、棒ごとコイルのほうへ引き寄せられる。 接点の箱も、水色になる。 水色は、前回の押しボタンと同じく「押されている」の色だ。 板が下の接点に届いて、左の道もひとつながりになり、LED が点く。
本物のリレーでも、磁石になったコイルが鉄の板を引き寄せ、その動きで接点が切り替わる。 図では、それを「接点の板とコイルを結ぶ棒」で描いた。
ここで、指がどこに触れているかを見てほしい。 指が押しているのは、右の道のボタンだけだ。 左の道の接点を押しているのは、コイル。つまり、電気である。
出力で、次を押す
前回の回路では、LED は「答え」を人に見せるための部品だった。
LED が点いていれば 1、消えていれば 0。
ここで、LED の代わりに、リレーのコイルを置いたらどうなるだろう。
答えが 1 なら、コイルに電気が流れる。
コイルは、次のリレーの接点を押す。
答えが、そのまま次のスイッチを押す。
たとえば、前回の一列に並べたボタン 2 つの先に、LED の代わりにコイルを置く。 A と B の両方を押したときだけ、コイルに電気が流れて、次のリレーの接点が押される。 AND の答えで、次のスイッチを押したことになる。
押された接点の先に、さらに別のリレーのコイルを置けば、その答えで、また次を押せる。 人の指が触れるのは、いちばん最初のボタンだけでいい。
押して、確かめる
リレーを 2 つ、つないでみよう。
ボタンで、リレー 1 のコイルを押す。 リレー 1 の接点の先に、リレー 2 のコイルを置く。 リレー 2 の接点の先に、LED を置く。
リレー 2 段 シミュレータ
ボタンを押して(もう一度押すと離して)、どの順に切り替わっていくかを見てください
LED は消えている。ボタンを押していないので、どのコイルにも電気が流れていない。
| ボタン | LED |
|---|---|
| 0 | 0 |
| 1 | 1 |
ボタンは 押している = 1、押していない = 0。LED は 点いている = 1、消えている = 0
ボタンを押して、どの順番で変わっていくかを見てほしい。
まず、リレー 1 のコイルが水色になる。 次に、リレー 1 の接点が押されてつながり、リレー 2 のコイルに電気が流れる。 最後に、リレー 2 の接点が押されてつながり、LED が点く。
右上から左下へ、階段を下りるように、押す役目が渡されていく。 指が触れているのは、右上のボタンだけだ。 離したときも、同じ順番で、1 つずつ戻っていく。
スイッチを電気で押せるようになると、回路の出力が、そのまま次のスイッチを押せる。 部品を、どこまでもつないでいける。
ところで、LED が点くまでには、少し間があった。 リレーを 1 つ通るごとに、少しずつ遅れて切り替わっていく。 図では見やすいように、ゆっくり動かしている。本物のリレーは、もっとずっと速い。 それでも、遅れがあることに変わりはない。 このことは、もう少し先の回で、もう一度考える。
押されると、切れる
ここまでの接点は、押されると、つながった。 前回の押しボタンと同じだ。
リレーには、もう 1 種類、接点がある。 押されていないあいだは、つながっている。 押されると、離れて、切れる。
この接点の先に LED を置いてみよう。
押されると切れる接点 シミュレータ
ボタンを押して(もう一度押すと離して)、LED がどうなるかを見てください
LED が点いている。押されると切れる接点は、押されていないあいだ、つながっている。
| ボタン | LED |
|---|---|
| 0 | 1 |
| 1 | 0 |
ボタンは 押している = 1、押していない = 0。LED は 点いている = 1、消えている = 0
ボタンを押していないとき、LED は点いている。 接点は押されていないので、つながったままだからだ。
ボタンを押すと、コイルが磁石になり、接点の板が棒ごと引き寄せられて、下の接点から離れる。 道が切れて、LED が消える。
| ボタン | LED |
|---|---|
| 0 | 1 |
| 1 | 0 |
入力が 0 なら 1、1 なら 0。
入力を、反対にして返す。
この決まりを NOT(ノット)という。
英語の not、「〜でない」である。
前回、押しボタンをどう並べても作れなかった「押したら、消える」。 それが、これだ。
押しボタンは、押すとつながるだけだった。 リレーは、押されると切れる接点を持てる。 しかも、その接点を押すのは電気なので、NOT の答えで、また次のリレーを押すこともできる。
机の上のリレーの中には、押されるとつながる接点と、押されると切れる接点が、両方入っている。 同じコイルが、2 つを同時に押す。 どちらを使うかは、どの足に線をつなぐかで決まる。
並べると、計算機になる
これで、AND・OR・NOT の 3 つがそろった。
前回、シャノンの論文を紹介した。 スイッチをつないだ回路のふるまいが、論理の計算と同じ形の決まりで書ける、と示した論文だ。 題名は「リレーとスイッチの回路の記号による分析」。 シャノンが考えていたのは、まさに、このリレーをつないだ回路だった。
同じころ、アメリカのベル研究所にいたジョージ・スティビッツは、
1930 年代の後半に、使わなくなったリレーとブリキ缶の切れ端を自宅の台所のテーブルに並べて、0 と 1 で足し算をする装置を組んだ。
机の上ではなく、台所のテーブルの上だった。
ベル研究所は、1940 年に、450 個のリレーを使った計算機を動かした。 8 けたの数のかけ算や割り算ができた。
その後も、リレーを何千個も並べた計算機が、いくつも作られた。 『誤り訂正のしくみ』を読んだ人は、第4回のハミングの話を思い出してほしい。1947 年、ハミングが週末のあいだ動かしておいた、ベル研究所の継電器式の計算機。あの継電器が、このリレーである。
日本でも、富士通が 1950 年代にリレー式の計算機を作った。 1959 年に作られた FACOM 128B は、約 5000 個のリレーでできている。 この計算機は、静岡県にある富士通の沼津の事業所で、いまも動かせる状態で残されている。
カチッ、の代償
ただし、リレーには、困ったところがいくつもある。
まず、鳴る。 接点の板が動くたびに、カチッと音がする。 何千個も並べた計算機は、動いているあいだ、ずっとカチカチと鳴っていた。
次に、遅い。 板が動き終わるまでには、時間がかかる。 机の上のリレーの説明書には、コイルに電気を流してから接点が切り替わるまで、6 ミリ秒以内、と書いてある。 6 ミリ秒は、1 秒の 1000 分の 6。人の目には一瞬だ。 けれど、計算機の中では、これが何千回も積み重なる。
そして、すり減る。 動く部分があるので、使ううちに傷んでいく。 机の上のリレーの説明書によると、切り替えられる回数は、およそ 2000 万回。 接点に電気を流しながら切り替えると、20 万回だ。
動く部分には、ほかのものが挟まることもある。 1940 年代、ハーバード大学にあったリレー式の計算機 Mark II では、リレーの接点のあいだに、蛾が 1 匹挟まっているのが見つかった。 技術者たちは、その蛾を作業の記録帳にテープで貼り、「本物の虫(bug)が見つかった、最初の例」と書き添えた。 機械の小さな不具合を bug(虫)と呼ぶのは、それよりずっと前からのことだ。 その「虫」が、本当に虫だった、というわけである。
それに、大きい。 机の上のリレーは親指の先くらいだが、これを何千個も並べると、部屋がいっぱいになる。
最後に、もう 1 つ。 接点を押し続けるには、コイルに電気を流し続けなければならない。 押しボタンは、押された形のまま止まっているだけなら、電気を使わなかった。 リレーは、押しているあいだ、ずっと電気を使う。
前回の表に、2 行目を足そう。
| スイッチ | 押すもの | 動く部分 | 切り替わるのにかかる時間 | 待っているあいだの電気 |
|---|---|---|---|---|
| 押しボタン | 人の指 | ある | ? | 使わない |
| リレー | 電気(電磁石) | ある(カチッと鳴る) | 数ミリ秒 | 押しているあいだ、コイルに流しっぱなし |
電気で押せるようになった。 答えで、次を押せるようになった。 けれど、鳴って、遅くて、すり減って、大きい。
困ったところの多くは、板が動くことから来ている。 では、こう考えてみたらどうだろう。
動く部分のない、電気で押せるスイッチはないか。
次回は、机の上のリレーを、もっと小さな部品に置き換える。
参考文献
- 松下俊介 著. 基礎からわかる論理回路. 第2版, 森北出版, 2021.7. 978-4-627-82842-1. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I031573740
- チャールズ・ペゾルド 著 ; 酒匂寛 訳. CODE : コードから見たコンピュータのからくり. 第2版, 日経BP, 2024.2. 978-4-296-08024-3. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I033318457
- HSINDA. "941 Series" (941H-2C-9D データシート). LCSC Electronics. https://www.lcsc.com/datasheet/C259269.pdf, (参照 2026-10-5).
- Claude E. Shannon. "A Symbolic Analysis of Relay and Switching Circuits". Transactions of the American Institute of Electrical Engineers, Vol. 57, No. 12, pp. 713–723, 1938. https://doi.org/10.1109/T-AIEE.1938.5057767, (参照 2026-10-5).
- Computer History Museum. "George Stibitz". Revolution: The First 2000 Years of Computing, Birth of the Computer. https://www.computerhistory.org/revolution/birth-of-the-computer/4/85, (参照 2026-10-5).
- Smithsonian National Museum of American History. "Log Book With Computer Bug". https://www.si.edu/object/log-book-computer-bug:nmah_334663, (参照 2026-10-5).
- Naval History and Heritage Command. "NH 96566-KN The First Computer Bug". https://www.history.navy.mil/our-collections/photography/numerical-list-of-images/nhhc-series/nh-series/NH-96000/NH-96566-KN.html, (参照 2026-10-5).
- 富士通. "FACOM128B". 富士通の歴史. https://global.fujitsu/ja-jp/about/corporate/museum/products/material/facom128b, (参照 2026-10-5).
- 日本機械学会. "Mechanical Engineering Heritage No.129: Electro-Mechanical Calculator FACOM128B". https://www.jsme.or.jp/kikaiisan/heritage_129_en.html, (参照 2026-10-5).
- 富士通. "プロジェクト仕掛け人に聞く「1. 富士通の原点がここにある」". https://global.fujitsu/ja-jp/about/corporate/museum/ikeda/exhibition/relay/chapter1, (参照 2026-10-5).